先日、仲介業者様から相談を受けた案件で、次のようなものがありました。
(1)売主Aから買主への所有権移転登記の依頼
(2)Aは登記済証(権利証)を紛失している
(3)Aは白血病で骨髄移植手術を受けた後であり、意思の表示が十分かどうか不明
(4)Aの身分証が健康保険証以外にあるか否か不明
(5)Aは独り身であり、親族としては別居の従兄弟(B)だけであり、Bが連絡窓口となっており、決済当日もBがAの代理人として出席される
(6)決済日は2日後であり、時間的に非常にタイト
特に注意するべき点は(3)と(4)です。
登記済証(権利証)がない場合の手続きは【22】【23】で記載した通りですが、Aさんには顔写真付の公的身分証がないということですので、顔写真なしの公的身分証2点で本人確認を行う必要があります。
「健康保険証」は確認できていますが、他の書類があるかはAの自宅を家捜ししないとBにも分からないとのこと。
また、Aの売却の意思がきちんと確認できないと、いくら書類が調っても所有権移転登記をすることはできません。
意思表示が不十分であれば、家庭裁判所に「補助」や「保佐」の申立てをしなければならない可能性もありました。
そうなると、数日後の決済には間に合いません。
とりあえず、Aとお会いしないと何とも判断できませんので、急遽予定を変更して、翌日Aが入院中の神戸市にある「神鋼病院」に仲介業者と共に向かいました。
Aとお会いすると、声もはっきり出ない状況であり、筆圧も弱かったのですが、意思はしっかりしており、筆談方法で売却の意思はきちんと確認することができました。
更に、BがA宅を探した結果、「年金手帳」を用意できたということでしたので、何とか予定通り決済を行う目処を立てることができました。
司法書士にとって、「本人確認」「意思確認」は非常に重要なことですが、一方で依頼者の負担を軽くして、そのニーズに応えることも重要です。
フットワーク軽く対応し、一定の法的判断を迅速に示すことを今後も行っていきたいと思います。