生前贈与


亡くなった後に財産を分けるのが相続なら、生きているうちに財産を先渡しするのが贈与です。
贈与とは、自己の財産を無償で人にあげることをいい、①生きているうちに行われる生前贈与、②贈与者の死亡を条件になされる死因贈与、および③遺言書により財産を贈与する遺贈とがあり、一般に贈与とは生前贈与を指すとされています。遺贈を除き、贈与は契約であることから、贈与者と受贈者との間の合意が必要となります。また、贈与の種類によっては課税される税の種別が異なります(詳細については下記の表をご参照ください)

効力発生
時期
内容
生前贈与 契約時 ・財産をあげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)との合意(「あげます」「もらいます」)で成立する契約である
・贈与契約は口頭でも書面でもよいが、書面によらない契約は履行が終わっていない部分についてはいつでも取り消すことができる
贈与税
死因贈与 死亡時 ・贈与者と受贈者との間で「贈与者が死亡した時点で指定した財産を贈与する」旨の合意を要する契約である
・死因贈与契約は書面による必要はなく口頭による口約束でもよいが、後のトラブルを回避する意味でも書面を作成(できれば公正証書)しておくとよい
・遺贈の規定が準用されることから受贈者が先に死亡した場合は無効、負担のない死因贈与契約はいつでも自由に取り消すことができる
相続税
遺贈 死亡時 ・受遺者の意思に関わりなく贈与者の一方的な意思表示で足りる単独行為である
・遺言という書面による必要がある
相続税

生前贈与と節税

相続税増税による税負担増を緩和させる方法の一つとして生前贈与に関心が高まっています。贈与税は相続税に比して高い税率が課せられているにもかかわらず、税負担を軽減する制度が充実していることから、賢く使えば贈与税がゼロに。しかも、贈与者にとっては生前に受贈者に財産を承継させることにより所有財産を減らすことができるので、その後、課税される相続税の節税対策としても有効です。
では、贈与にはどのような税軽減の優遇措置が設けられているのでしょうか。非課税贈与について紹介します。

贈与の中には、一定の要件を満たせば非課税となる非課税枠が設けられたものがあり、主に次の4つがそれに該当します。

①暦年課税制度では、一年間に贈与を受けた価額から毎年110万円までが基礎控除
②相続時精算課税制度では特例により2500万円までが非課税
③夫婦間贈与(おしどり贈与とも呼ばれる)の特例により2000万円までが非課税
④教育資金の一括贈与の特例により1500万円までが非課税


(1)暦課税制度と相続時精算課税制度
贈与税の課税方式には、贈与を受けた年ごとに課税される暦年課税と、贈与者が亡くなった時に相続税と精算する相続時精算課税の2種類があります。
暦年課税とは、贈与を受けた人が、毎年1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた価額から、110万円の基礎控除を控除し、それを超えた贈与価額に税率をかけて贈与税を計算する一般的な課税方式です。
これに対し、所定の要件を満たした場合に累計2500万円までが特別に控除されるのが平成15年に創設された相続時精算課税です。相続時精算課税では、贈与者と受贈者に制限があり、60歳以上の祖父母・父母から20歳以上の子・孫への贈与に限定され、累計2500万円までを特別控除とし、その控除額を超える分については一律20%の贈与税がかかります。ただし、贈与者が亡くなると、贈与された財産は、相続財産に加算されて相続税を計算し、贈与時に申告した贈与税(2500万円を超える贈与価格に課税された贈与税)との差額を精算することになります。つまり、2500万円までが全額非課税となるのではなく、相続まで税金が繰り延べになる制度であり、一概に相続税の節税効果が認められるわけではありませんが、相続時に加算される贈与財産の価格は贈与時の時価で評価されることから、将来値上がりが見込まれる、もしくは収益のある物件を贈与する場合等には有効な節税対策となりえます。

暦年課税制度 相続時精算課税制度
贈与者 制限なし 60歳以上の父母・祖父母
受贈者 制限なし 20歳以上の子・孫
控除額 基礎控除
(毎年)110万円
累計2500万円(特別控除)
税率 10〜50% 一律20%
相続との
関係
相続開始前3年以内の贈与については相続財産に加算 贈与した財産を贈与時の時価で相続財産に加算
選択 不要 ・翌年の3月15日までに相続時精算課税制度を選択した旨を所轄税務署に届け出なければならない。これを怠れば通常通り、暦年課税の扱いとなる。
・一度選択した後は暦年課税制度に変更できない

①暦年課税の年間110万年以内の非課税枠を用いた節税対策
暦年課税の場合、1年間に受けた贈与が110万円以内なら相続税は非課税となります。例えば、親から子へ1100万円を贈与するとして、一括贈与した場合は、基礎控除額110万円を差し引いた990万円が課税対象となり、贈与税は40%の396万円となります。他方、1100万円を10回に分けて、毎年110万円を10年間贈与すると、基礎控除額内に収まるので贈与税はゼロに。加えて贈与により所有財産が1100万円減った分、将来発生する相続税が安くなり、税負担を軽減させることができます。 また、110万円以内という基礎控除の限度額はもらう側に課せられた制限であって、あげる側には何ら制約はないことから、家族単位、例えば娘・息子・孫など複数人に毎年1人につき110万円以内の贈与を繰り返せば、相続時に高い節税効果が望めます。ポイントは長期・分割贈与。早く始めて長く続けるほど、相続時の節税効果が大きくなるのが、この暦年課税の基礎控除枠を用いた対策です。

②相続開始間近の贈与
暦年課税方式では、相続開始3年以内の贈与は相続財産に加算されることから、節税対策とはならないのが原則です。もっとも相続税の課税価額に加算すべき贈与とは、相続又は遺贈(遺言による贈与)により、財産を取得した者が、相続開始前3年以内に被相続人から受けた贈与のことをいい、相続によって財産を取得していない者に対して行われた相続開始前3年以内の贈与については課税対象とはなりません。そこで、相続開始が間近であると予想される場合には、孫や嫁、娘婿や兄弟姉妹、甥、姪などが相続財産あるいは遺贈を取得せず、かつ死亡保険金の受取人に指定されていないときには、この者たちに非課税額の110万円以内を贈与すれば、有効に所有財産を減少させることができるので、節税対策になります。


(2)夫婦間の居住用不動産の贈与(通称おしどり贈与)
相続税と同様に、贈与税にも配偶者が優遇される配偶者控除があります。ただし、贈与の場合は、居住用不動産の贈与に限定され、かつ下記の条件を満たすことが適用要件となります。

①夫婦の婚姻期間が20年以上であること
②国内の居住用不動産、もしくはその取得のために充てる資金であること
③贈与を受けた翌年の3月15日までに贈与を受けた自宅、もしくは贈与された資金で取得した自宅に居住していること
④同じ配偶者からの贈与について、過去にこの控除を受けたことがないこと

上記の要件を全て満たせば、110万円の基礎控除とは別に2000万円までが非課税となり、相続財産が多く、相続税が高額になる可能性がある場合には節税効果が期待できます。なお、この特例を受けるには贈与税の申告が必要です。


(3)教育資金一括贈与
大型の非課税贈与として、父母・祖父母など直系尊属から30歳未満の子・孫へ教育資金を一括贈与すれば1500万円までが非課税となる教育資金一括贈与があります。一度の贈与で相続財産を大幅に減らせる即効性があります。ただし2019年3月31日までの期間限定で、30歳に達した時点で残額があれば贈与税が課税されます。

【適用要件】
①贈与者は、受贈者の父母または祖父母などの直系尊属であること
②受贈者は30歳未満であること
③贈与する教育資金は以下の金銭であること
a.学校等(大学・高校等)に支払われる入学金その他の金銭
b.学校等以外(塾など)に支払われる金銭のうち一定のもの(限度額500万円)


(4)住宅取得資金の贈与
自宅を取得するための資金の贈与は配偶者以外にも、子や孫に対しても非課税枠が設けられています。非課税限度額は、住宅の種類および贈与契約締結の年度により異なります。

【適用要件】
①贈与者は、受贈者の父母または祖父母などの直系尊属であること
②受贈者は20歳以上の子・孫などの直系卑属で、贈与を受けた年の合計取得金額が2000万円以下であること
③新築・取得の場合は以下の要件を満たすこと
a.住宅の登記簿上の床面積は50㎡以上240㎡以下で、かつ床面積の2分の1以上が受贈者の居住の用に供されるものであること
b.次のいずれかに該当する住宅であること
・建築後使用されたことのないもの
・取得日前20年以内(耐火建築物の場合25年以内)に建築されたもの
・地震に対する安全性について「耐震基準適合証明書」または「住宅性能評価書の写し」又は既存住宅売買瑕疵担保責任保険契約が締結されていることを証する書類により証明されたもの
・上記に該当しない中古住宅を取得した場合で、その住宅を取得する日までに耐震改修工事の申請等をして、贈与を受けた翌年3月15日までに改修工事を完了し耐震基準に適合したことが証明されたこと等の所定の要件を満たすもの
④増改築の場合は以下の要件を満たすこと
a.住宅の登記簿上の床面積は50㎡以上240㎡以下で、かつ床面積の2分の1以上が受贈者の居住の用に供されるものであること
b.すでに自己の居住の用に供している住宅にかかわる工事で一定の工事に該当することについて「確認済証」「検査済証」「増改築等工事証明書」により証明されたものであること
c.増改築の工事に要した費用の額が100万円以上であること(居住用部分の工事費が全体の工事費の2分の1以上)
⑤贈与を受けた年の翌年の3月15日までに住宅を新築・取得・増改築等をし、同日までに居住すること、もしくは同日後に遅滞なく居住することが確実であると見込まれること





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