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遺言
被相続人の明確な意思が伝わる遺言は 「相続が争続とならないための最善にして唯一の策」 とまで称されるほど、その高い効果が期待でき、実際、相続争いの大半は遺言書が残されていれば回避できたと言われています。
こんな方は特に遺言書が必要です
- 相続人が複数いる
- 相続人のなかに行方不明者や未成年者、認知症の人がいる
- 内縁関係の配偶者がいる
- 夫婦間に子どもがいない
- 身寄りがない
- お世話になった息子の嫁にも財産を残したい
- 離婚・再婚している
- 相続手続きの負担をできるだけ軽くしてあげたい
- 事業の全部を家族の中の一人に引き継ぎたい
- ペットの世話や葬儀などの希望を叶えたい
- 分割しにくい不動産が財産の大半を占める
- 相続人の中に病気や障がいを持つ方がいる
目次
遺言書作成のメリット
相続が発生した場合、遺言がなければ法定相続にしたがって遺産の分割が行われます。しかし、遺言があれば法定相続に優先する為、特定の相続人に資産を残したり、遺贈という形で相続人以外の者に資産を残すことも可能となります。
遺言がない場合、相続財産の名義を変更するには、相続人全員が共同して遺産分割協議書を作成して添付書類として提出することが必要となります。遺言があってどの財産を誰に相続させるのか明確に記載しておけば遺産分割協議は必要なく名義変更手続を単独で行うことができます。また遺言執行者を指定しておけば預貯金の払い戻しも円滑に行うことができます。
法的に有効な遺言書があれば、トラブルが多発する遺産分割協議を省略することができるので、無用な相続人間の争いを回避することができます。
遺言できる事項
法的効力が認められるのは財産・身分関係の事項に限られます。
遺言書は法的文書であるため、遺言としての法的効力が認められているのは財産関係や身分関係等に限られ、それ以外の事項については遺言としての法的効力は生じません。
例えば、自分の財産を相続人以外の誰にあげるか(遺贈・寄付)、相続人のうち誰に何をあげるか(相続分の指定・遺産分割方法の指定)、婚姻外の子どもの認知をする、残された未成年の子供の後見人を指定する、自分の葬儀の主催者や墓守りを誰に指定するか(祭祀承継者の指定)などが法的効力を認められた事項です。
遺言としての法的効力はありませんが、遺言の動機や心情、配分を定めた理由、残された家族対する想いや希望を書き記すことは、感情面での対立を緩和させ、相続紛争を予防する効果が認められています。このメッセージを付言事項といい、最近では付言事項の活用が重要視されています。
遺言できる事項 |
財産処分の指示 |
誰にどのような財産を相続させるかを指定でき、また相続人以外の第三者に財産を譲り渡すこと(遺贈)や、財団法人の設立などの寄付行為、信託の設定などをすることができる。 |
相続分の指定・遺産分割の指定 |
法定相続分とは異なる各相続人の相続分を指定でき、また具体的に遺産分割の方法を指定することができる |
遺産分割の禁止 |
相続開始から最長5年以内であれば、財産の分割を禁止することができる。 |
推定相続人の廃除又は廃除の取消し |
虐待や侮辱などの理由で財産を相続させたくない場合は、その相続人(兄弟姉妹を除く)を遺言によって廃除することができる(手続きを生前に行うことも可能)。廃除が認められるためには、家庭裁判所の審判もしくは調停を申立てる必要があり、遺言で廃除をする場合はその手続きを遺言執行者が行う。また、生前に認められた廃除の効果を遺言によって取り消すこともできる。 |
子の認知 |
婚姻外で生まれた子どもを遺言によって認知することができる。遺言により認知を行う場合は、遺言執行者の指定が必要。 |
未成年後見人、未成年後見監督人の指定 |
遺言者の子が未成年の場合は、その子生活や財産管理を委託する後見人および後見監督人の指定をすることができる。 |
遺言の執行に関すること |
遺言の内容を実行させるための遺言施行者をしていすることができる。
・遺言執行者の指定又は指定の委託
・遺言執行者の職務内容の指定
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相続人の担保責任 |
相続人の担保責任とは、具体的に遺産分割で財産を取得したものの、その財産が他人物であったり、数量不足であったり、他人の権利が付着していたり、隠れた瑕疵があったりしたような場合に、その相続財産を取得した相続人を保護するため、他の相続人に対して、損害賠償請求や解除を求めることができるというもの。他の相続人は相続分に応じて、その責任(担保責任)を負うのが原則だが、遺言によって特定の相続人の担保責任を免除したり、減免したりすることができ、また加重することもできるとされている。 |
遺留分減殺請求方法の指定 |
遺言によって侵害された遺留分を、法定相続人が減殺請求した際に、どの財産から減殺していくのか、その順序と割合を指定することができる。指定がない場合は①遺贈→②死因贈与→③贈与の順に減殺されることになる。 |
その他 |
・祭祀承継者の指定
・遺言の取消
・生命保険金の受取人の指定・変更
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遺言の種類
遺言を作成するなら無効となる恐れの少ない公正証書遺言を!
遺言の方法は、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つの方法がよく利用されます。
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の内容、作成日時、氏名を全て自署し(ワープロ、パソコン作成は不可)押印する遺言で、紙とペンと印鑑さえあればすぐに書くことができる手軽さが魅力ですが、あくまでも法的な文書であるため厳しく書式が定められており、要件が一つでも欠ければ無効となります。また、死亡時には家庭裁判所において検認という手続きを受ける必要もあり、手軽に見えて、実はデメリットも多いのが自筆証書遺言です。そのため、当事務所では、無効のおそれが少なく、かつ偽造や変造される危険性や紛失のおそれもない公正証書遺言をおススメしています。
公正証書遺言とは公証人役場で公証人と証人2人の面前で、遺言の文面を確認しながら作成するもの。自筆証書遺言と異なり検認が不要なので、死後すぐに遺言に従った遺産分割手続きを進めることができ、また遺言は公証人役場で保管されるため紛失のおそれもありません。費用と手間がかかるのがマイナス要素ではありますが、遺言が無効となったり、紛失したりといったリスクが低いことから、多少の費用はかかっても遺産承継を確実なものとし、相続時の安全性を担保する意味でもお勧めです。なお、各遺言のメリット・デメリットについては下の表をご参照ください。
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自筆証書遺言 |
公正証書遺言 |
秘密証書遺言 |
作成方法 |
・本人が遺言の全文
・日付
・氏名等を自筆で書き、押印する(パソコン不可・印鑑は認印可)
・用紙や筆記用具に定めはない
・封筒に入れる
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公証役場で公証人に遺言内容を口述し、公証人が作成する |
・本人が遺言書に署名押印の後、遺言書を封じ、遺言書と同じ印鑑で封印する
・公証人の前で本人の遺言であること、本人の住所氏名を述べ、公証人が日付と本人が述べた内容を書く
・パソコン、代筆可
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場所 |
問わない |
公証役場 |
公証役場 |
証人 |
不要 |
2人以上 |
2人以上 |
署名押印 |
本人 |
本人・公証人・証人 |
本人・公証人・証人 |
検認 |
必要 |
不要 |
必要 |
メリット |
・好きなときに1人で書ける
・費用がかからない
・秘密が守れる
・何回でも書き直すことができる
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・原本が公証役場に保管されるので、紛失したり、書き換えられる心配がない
・無効になりにくい
・検認手続きが不要
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・遺言があることを明確にしながら、遺言内容の秘密が守れる
・偽造や書き換えられることがない
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デメリット |
・遺言書を紛失したり、死後に発見されないおそれがある
・第三者によって変造・偽造されるおそれがある
・不備や内容がわかりにくいなど、無効となるおそれがある
・検認手続きが必要
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・遺言書の存在と内容を秘密にしておけない
・手続が多少面倒
・作成時に費用がかかる
・証人2人が必要
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・不備や内容がわかりにくいなど、無効となるおそれがある
・作成に若干の費用と手間がかかる
・検認手続きが必要
・証人2人が必要
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この他、死亡の危急に迫っている、あるいは伝染病などで一般社会との交通が断たれた隔絶地にあるといった特別事情があるために、上記の方式(普通方式といいます)によったのでは遺言者の最終意思を残し得ない場合には、特別の方式によって遺言をなすことが認められています。
危急時遺言の方式
①証人3人以上の立会いで
②遺言者が証人の一人に遺言の趣旨を口授する
③口授を受けた証人がこれを筆記して遺言者と他の証人に読み聞かせる、または閲覧させる
④各証人がその筆記が正確なことを確認した後に署名・捺印をすれば遺言が成立する
⑤遺言成立後20日以内に証人の一人、または利害関係人の請求により家庭裁判所で「確認」を受ける
※危急時遺言は、遺言者が普通方式によって遺言ができるようになった時から6ヶ月生存する場合には失効します。また、確認を受けた遺言書であっても、遺言者死亡後、遺言書の検認を受ける必要があります。
自筆証書遺言で無効とされる例
(1)形式的不備
・パソコン、ワープロで作成されたもの
・テープレコーダーに吹き込んだ遺言
・遺言書の全文を他人が代わって書いた遺言書
・日付のない,日付印を用いた遺言書
・遺言作成の日より日付を遡らせて記載された遺言書
・氏名が明記されていない、氏名を他人が書いた遺言書
・修正液を用いた遺言書
・共同で作成した遺言書
(2)内容的不備
・預貯金の記載はあるが、投資信託や株式などの記載が漏れている
・土地の記載はあるが、その上の建物の記載が漏れている
・一つの財産を複数人に相続させる場合で、各相続人の相続分を明記していない
遺言書作成のポイント
遺言書を作成するときのポイントは次の6つです。
特定の財産について「相続させる」と記載されていれば、当該財産について指定された相続人は、遺産分割協議等の手続きを経ることなく、遺言者の死亡と同時に財産を承継することができ、また不動産を取得する場合には、単独で所有権移転登記の申請を行うことができます。これに対し、「遺贈する」という文言では、遺言執行者が指定されていない限り、相続人全員の協力がなければ登記申請をすることができず、これでは遺産分割協議書を作成するのと同じこととなり、遺言の利点を生かすことができません。したがって、相続人以外の者に財産をあげる場合を除いては「相続させる」という文言を使うようにしましょう。
遺言があっても遺産の一部しか指定していない場合や「○○に全財産の3分の1を相続させる」と遺産分割について割合で指定されている場合などは、遺産分割協議が必要となり、相続争いを回避させ、かつ相続手続きを簡略化させる、という遺言の利点をいかすことができません。そこで、遺産分割協議を省略させるためには、財産を特定して記載し、かつ全ての財産を網羅する必要があります。具体的には、土地は、所在・地番・地目・地籍を、建物は、所在・家屋番号・種類・構造・床面積を記載し、 預金は、金融機関名・支店名(○○銀行○○支店にある遺言者名義の預金)を明記し、記載漏れを防ぐため独立の条を設けて、「その他一切の財産は○○に相続させる」等の文章を書いておくと遺言書に記載されていない財産、あるいは書き忘れた財産の全てが相続されることになります。
具体的な記載の仕方については「
遺言の具体的な記載例」を参照
相続財産、とりわけ不動産の共有化は、相続の禁じ手であり、可能な限り避けるべきです。というのも不動産の共有化は手続きや権利関係を複雑にし、いざ当該不動産を処分しようにもできず、結果不動産の塩漬けを招き、大切な財産の価値を著しく毀損しかねないからです。
借入金などの債務は、遺言書で特定の相続人が負担する旨記載しても、債権者の同意がない限り、相続人全員が、法定相続分に応じて負担することになるので、遺言で借入金負担者を明示する必要性はないようにも思えます。しかし、特定の相続人が債務を負担する場合に、これを遺言で明示しておかなければ、債務が未分割の状態となり、遺産の分割ができるまでは債務控除をその特定の者から差し引くことができなくなり、かえって相続税の負担が大きくなってしまいます。
付言事項自体には法的拘束力はありませんが、遺言内容についてのご自身の想いや、家族に対する愛情や感謝などのメッセージを書き残すことで、相続人間の感情的な対立を緩和させる抑止効果が期待できます。
兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分という最低限相続できる権利が認められています。例えば、相続人として2人の子どもがいる場合に、そのうちの一方にだけすべての財産を相続させる遺言のように、遺言の内容が他の相続人の遺留分を侵害する場合には、他の相続人は遺留分をよこせ、と遺留分減殺請求権を行使して紛争になることがあります。そのため、遺言書を作成する際には、原則として各相続人の遺留分を侵害しないような内容にしておく必要があります。もっとも、家業を特定の相続人に承継したいなど、どうしてもその他の相続人の遺留分を侵害してしまうケースも否定できません。そこでこのような場合には、あらかじめ他の相続人に遺留分を放棄してもらったり、または生命保険や養子縁組を利用して、遺留分を少なくする対策を講じることが考えられます。
遺留分の詳細についてはこちら
遺言の具体的な記載例
予備的遺言
民法において遺贈は、「遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」と規定されています。また,特定の相続人に「相続させる」旨の遺言においても,判例では,推定相続人が遺言者より先に亡くなった場合,その推定相続人の代襲者やその他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り遺言の効力を否定しています。そのため、受遺者や指定相続人が、遺言者よりも先に、ないしは同時に死亡した場合には、その者に対し遺贈/相続させるという遺言の効力は失われ、財産の行方は法定相続人間の遺産分割協議に委ねられることになり、話し合いが難航すれば、骨肉の争いに発展する可能性もあります。そこで、このような無用な争いを避けるため、遺言書を作成する場合には、受遺者/指定相続人が自分よりも先に死亡する事態を想定して予備的遺言を付加させることが考えられます。
預貯金・証券の記載
支店までを記載。金額や商品名まで細かく書きすぎると引き出しや預け替えに対応できないことも。また、預貯金を複数で相続・遺贈する場合は、預貯金は残高が動くものなので、その後の引き出しや預け替えに対応できるよう、具体的な金額ではなく、包括的な割合を記載するのが鉄則です。
財産の記載漏れを防ぐための工夫
独立の条を設けて、「その他一切の財産は○○に相続させる」等の文章を書いておきます。
付言事項
法的効力はありませんが、分割の理由などを書き残すことによって、相続人を納得させる効果があります。
日付
日付は特定されていなければならず、吉日という表記では無効となります。
印鑑
印鑑は認印でもかまいませんが、後日紛争になることを防止する意味でも実印で押印するようにしましょう。
遺言記載例:予備的遺言の具体例
第〇条 遺言者は、遺言者が所有する次の不動産を長男山田一郎(昭和○○年○月○日生)に相続させる。
第〇条 万が一、遺言者より前に又は遺言者と同時に長男山田一郎が死亡した場合は、遺言者は、前条記載の不動産を長男山田一郎の息子一太(平成○年○月○日生)に相続させる。
遺言の訂正の仕方
自筆証書遺言では、その訂正についても法定されており、その方式に従わない場合には、変更がないものとして扱われます。
訂正の仕方としては
①加入の場合は{の記を付け、削除・訂正の場合は元の文字が判読できるように二重線で消して、正しい文言を記入する。
②変更した箇所に、遺言書に押印した印鑑で押印する。
③変更した部分の欄外に「○行○字削除○字加入」と記載するか、末尾に「第○条○行目『○○』の文字○字削除し、『○○』の文字○字加えて変更する」などのように記載する。
④記載した箇所に、遺言者本人が署名する。
遺言書Q&A
遺言は遺言者の最終の意思を確認するものです。したがって、遺言者はいつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます。
公正証書遺言であっても、相続人や受遺者が既に死亡している場合には無効となります。そこで、このような場合に備えて予備的遺言を作成することをお勧めします。例えば「全財産を長男に相続させる」といった内容の遺言書を作成する場合には、「長男が相続開始時において既に死亡している場合には孫に相続させる」と記載すれば、仮に長男が相続開始時に亡くなっていても、遺言は有効に成立します。
相続においては、胎児は生まれたものとみなされるため、胎児にも相続権があります。胎児に財産を譲りたい場合には、「妻○○○の胎児」として特定します。なお、死産だった場合には、胎児ははじめから存在しなかったものとされ、遺言は無効となります。
秘密証書遺言の場合であれば作成できます。自筆証書遺言の場合には、ワープロやパソコンで印字された遺言は無効になりますので注意が必要です。
内容的に矛盾する遺言については、作成日付が新しい遺言書に効力が認められます。矛盾しない部分については双方ともに効力がありますので、保管しておく必要があります。
例えば、遺言書で長男に相続させるとした土地が、実際には他人のものだったという場合、被相続人(遺言者)が遺言書作成後に、当該土地を第三者に売却してしまったと考えられますので、遺言のその土地の部分は取り消されたことになります。したがって長男はその土地について何らの権利も取得できないことになります。
資産や相続人が変わった時など、作成した遺言書の内容が現実にそぐわなくなったときには、書き直すべきです。そのままの内容で放置していると、相続時に無効となる可能性があるからです。とはいえ、公正証書遺言の場合は費用や手間がかかるのも事実。当事務所では、その後の資産や家族状況の変化に対応できる遺言書の提案をさせていただいております。お気軽にご相談ください。