離婚するときに未成年の子どもがいると、養育費の取り決めをすることが多いです。しかし、取り決めをしていても、支払いをしなかったり、できなかったりすることがあります。
この場合、未払いの養育費が時効にかかることはあるのでしょうか?支払っていなかった場合、いつの分まで支払わなければならないのでしょうか?
今回は養育費の時効の問題について解説します。
養育費の時効は何年?
養育費は、法律上支払い義務があるもので、親権者とならなかった親は親権者になった親に対して養育費の支払いをしなければなりません。しかし、養育費を請求する権利も、長期間行使していないと、時効にかかることがあります。
では、養育費の時効期間は何年なのでしょうか?
これについては、「離婚時に養育費の取り決めをしていたかどうか」で異なります。
離婚する際、必ず養育費の取り決めをしないといけないわけではありません。
離婚と同時に取り決めをして、離婚後すぐに支払いを開始するケースもありますが、離婚の際に取り決めをせず、離婚後しばらくしてから請求するケースもあります。また、離婚後結局請求をしなかった、ということもあります。
ケースによって、養育費の時効の考え方が変わってくるので、以下で順番に見てみましょう。
既に発生しているものは5年
離婚時に取り決めをしていて、すでに養育費が具体的に発生している場合、養育費の時効期間は基本的に5年です。
養育費は毎月定額を支払うことが普通ですが、このような債権のことを「定期給付債権」と言います。民法169条により、定期給付債権の時効は5年と定められています。
つまり、養育費は発生すると、その後5年で消滅します。毎月発生し、5年経つと毎月順々に消滅していくイメージです。
たとえば、平成23年10月から月々5万円の養育費支払いの取り決めをしたとします。すると、平成28年10月から毎月5万円ずつ時効消滅して、平成28年12月には合計15万円、平成29年3月には合計30万円の養育費が時効消滅します。
養育費の取り決めをしている場合、時間が経過すると、時効消滅する部分がどんどん大きくなり、支払いをしなくて良い部分が増えていきます。
取り決めの形態によって時効期間が異なる
このように、養育費にも時効がありますが、取り決めの方法によって時効期間が異なってきます。
養育費を取り決める場合、
- 単なる当事者間の協議離婚合意書に定める場合
- 離婚公正証書にする場合
- 離婚調停や養育費調停・審判によって定める場合
- 離婚訴訟によって定める場合
があります。
この中で、単なる当事者間の協議離婚合意書に定める場合と、離婚公正証書にする場合の時効期間は5年です。
公正証書にすると、相手の給料などを強制執行(差押)することができるので、一般的には裁判手続きに近いイメージを持たれるかもしれません。しかし、時効の効力としては普通の協議書と変わりません。民法169条が適用されて、5年が経過すると権利が消滅します。
これに対し、離婚調停や養育費調停・審判、離婚訴訟などの裁判所の手続きによって養育費が決定された場合、扱いが異なってきます。確定判決(裁判の「判決」のこと)で認められる時効期間が適用され、時効期間は10年となります。
つまり、調停や審判、訴訟によって養育費が定められた場合、不払い状態になってから10年間、支払い義務は時効消滅しません。
以上のように、養育費の時効期間は、養育費の定め方によって異なるため、支払う側としては、調停や裁判をしない方が、支払い義務が残る期間が短くなります。
時効の中断とは?
それでは、既に養育費の取り決めをしていた場合、支払期限から5年や10年が経過したら、必ず時効消滅して請求を受けなくなるのでしょうか?
実は、期間が経過していても、養育費の支払いをしなければならない可能性があります。それは、時効には「中断」という制度があるからです。
時効の中断とは、時効期間の進行中に一定の事情が発生することによって、時効の進行が止まることです。中断が起こると、時効が止まるだけではなく、期間の計算が当初に巻戻ります。
養育費の時効が完成しそうになっていても、時効の中断事由が発生したら、時効の計算が当初に戻って時効が成立しないのです。
時効の中断事由には、債務承認や裁判上の請求、仮差押や差押などの手続きがあるので、以下で簡単に説明します。
債務承認
まず、債務承認があると時効が中断します。債務承認とは、支払い義務者が「支払い義務があります」ということを認めることです。
養育費を支払わなくなったところで、相手から請求され、「払います」と言ったり、そのような内容の誓約書や書面を差し入れしたりすると、養育費の時効は中断します。
ただ、口頭で「払う」と答えただけの場合には、証拠が残らないので、債務承認の成立を争うこともできます。書面で債務承認や一部の支払いを求められ、応じてしまうと時効中断が生じます。
裁判上の請求
次に、裁判上の請求があります。たとえば、訴訟や調停などをすると、時効を中断させることができます。養育費の取り決めを単なる協議離婚合意書や離婚公正証書で作成している場合、養育費調停を起こされると、養育費の時効が中断してしまいます。さらに、この場合、時効期間が5年から10年に延長されます。
仮差押、差押
仮差押や差押えの手続きにも時効中断の効果があります。すでに養育費調停・審判や離婚調停、離婚訴訟などで裁判所による決定が行われている場合や、離婚公正証書を作成している場合、相手から給料などを差し押さえられると、時効が中断します。
以上のように、養育費の時効が中断されたら、また当初から養育費の期間のカウントを開始することになるので、中断を繰り返すと半永久的に養育費の時効は完成しなくなります。
時効完成目前にとられる方法は?
養育費の時効完成が目前になっていて、裁判手続きが間に合わない場合、内容証明郵便によって滞納している養育費についての支払い請求書が届くことが多いです。このことにより、半年間養育費の時効完成が遅れます。
ただ、これだけでは養育費の時効が中断しないため、その半年間の間に、相手は具体的な裁判手続きをとってきます。正式な裁判をされると、養育費の事項が中断します。
養育費の取り決めがされてなかった場合は?
ここまでは、養育費の取り決めが行われていたケースですが、離婚時や離婚後になっても養育費の取り決めをしていない場合もあります。
このように、取り決めをしていない場合、養育費の時効はどのように計算されるのでしょうか?
実は、養育費は、具体的な取り決めをしていないと、遡及分(過去分)についてはほとんど認められません。
養育費は、子どもの親であれば当然支払わなければならないお金です。よって、本来なら取り決めをしていても、していなくても、遡及分を支払わなければならないように思えます。
しかし、実際には、たとえ養育費調停をしても、家庭裁判所は調停の申立時からしか養育費の支払期間を遡及させないことがほとんどです。
たとえば、平成23年10月に離婚して、平成26年5月に家庭裁判所に養育費調停を申し立てて、その後平成26年11月に月々5万円を支払う内容の調停が成立したとします。
この場合、平成26年5月から11月までの7ヶ月分計35万円については支払いをしないといけませんが、離婚後申立までの約2年半の分については、請求を受けないのです。
つまり、離婚時に養育費の定めをしていなかったとき、相手の請求が遅くなればなるほど、支払いをしなくて良い期間が延びていきます。
養育費はいつの分まで請求されるのか?
次に、養育費を長期間支払っておらず、後日請求された場合、いつまでの分を請求されるのかを見てみましょう。
これについても、やはりすでに取り決めをしているか、していないかによって異なってきます。
養育費の取り決めをしている場合
すでに取り決めをしている場合、権利が具体化しているため、期限が到来している分について全額を請求されます。
ただし、時効が完成していたら、支払いをする必要がありません。
そのためには、「時効援用」という手続きが必要です。これは、「時効による利益を受けます」という意思表示です。援用をするときには、相手に対して内容証明郵便で、時効援用の通知書を送ります。
養育費の取り決めをしていなかった場合
これに対し、養育費の具体的な取り決めをしていなかった場合には、相手が養育費調停などによって具体的に請求をした月からの支払いが必要になります。
養育費の支払いをしていなかったらどうなる?
最後に、養育費の支払い義務があるのに支払いをせずに放置していたらどうなるのか説明します。
この場合、養育費の取り決めの方法によって異なります。
協議離婚合意書しかない場合
単なる協議離婚合意書しか作成していなかった場合、相手から養育費調停を起こされます。
すると、家庭裁判所から呼出状が届くので、出頭して話し合いをしなければなりません。
話合いが成立しなければ、裁判官が審判によって養育費の金額を決め、申立時からの遡及分の支払い命令も出ます。
公正証書、調停証書などがある場合
離婚公正証書を作成している場合や、調停・審判・訴訟で養育費の支払い義務が定められている場合、相手から強制執行(差押え)をされる可能性が高いです。
差押えの対象は、債務者のあらゆる資産であり、預貯金や生命保険、不動産、投資信託だけではなく給料も差押えの対象になります。給料を差し押さえられると、完済するまで毎月取り立てが続いてしまうので、非常に影響が大きいです。
このように、養育費を滞納すると大変な不利益が及ぶので、一度取り決めた約束は最後まできちんと守りましょう。
以上のように、養育費には時効があります。時効が完成したら養育費を支払う必要はなくなりますが、時効の利益を得るためには「援用」という手続きが必要です。
また、離婚時に養育費の取り決めをしていなかった場合、そもそも養育費の具体的な支払い義務が発生しません。
ただ、養育費は子どものための大切なお金ですから、約束したのであれば、支払う側としては、きちんと約束を守って子どもの成人まで支払いを続けることが大切です。
養育費を長期間支払っていないなどの事情で、困ったときや対処方法がわからない場合には、弁護士に相談するようにしましょう。
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